寝台列車でバンコクへ


 朝、9時を過ぎて遅めの朝食を取りに1階のカフェレストランに降りる。カウンターの近くに席を取り食べていると、ホテルの人が、「Is this your Room No.?」と、僕の朝食券の部屋番号を指さしながら聞いてきた。「イエス」と答えると、電話がかかっていると、カウンターの電話を指さした。電話に出ると、F氏だった。12時にNap Tourで会う事にした。
 部屋に帰ると荷造りをし、忘れ物が無いかチェックすると、部屋を出る。使用したランドリーサービスの精算をしてチェックアウトすると、ランベルツアーに向かって歩き出した。大きなリュックを担いでいると、すぐにいろんなトゥクトゥクの運ちゃんが声をかけてくる。手を横に振って、いらないという仕草をしながら通りを北に歩いていく。
 ランベルツアーに入ると、中澤氏をお願いする。奥の机に座っていた、昨日迎えに来てくれた女性がニコッと笑いながら会釈をしてくれた。
 少しして、中澤氏が姿を現す。すご〜っく、真面目な堅物のイメージだ。寝台車のチケットを貰うと足らなかった200バーツを支払う。領収書を貰って、荷物を持とうとすると、「これからどちらに行かれるんですか?」「トレッキングを頼んだNap Tourに行って、インターネットを使用させて頂こうと思っています。」「ああ、あそこはいいらしいですね。荷物が重たいようでしたら、こちらでお預かりしておきますよ。」「いえ、そのままチェンマイの駅に行きますから、持っていきます。」そういって、荷物を担いで、お店の人が見送ってくれる中、歩き出した。しかし、この中澤氏、にこりともしなかった。無愛想な感じではなく、印象はまったく悪くないというより、好感が持てる人だが、もう少し柔らかくてもいいのにと思ってしまった。

 11時50分頃、Nap Tourに到着し、庭に入る。しかし、誰もいない。どうしようかと思っていると、タイ人と思われる男の人が通りかかり、何か身振りをすると、机の上にあるベルを押した。僕はそちらの方にいって、そのベルの横を見て、しまった!と思った。11時40分から14時30分まではお昼休みで、ご利用はご遠慮下さいと書かれていた。営業時間のチェックをしていなかった。奥さんが出てこられて、12時にF氏とここで待ち合わせをしている事を伝えると、待っていても良いですよとおっしゃってくれたので、F氏が来るまで待たせていただくことにした。

 12時過ぎ、F氏が現れると、Nap Tourが昼休みなので、とりあえず昼ご飯にしようと、Nap Tourお勧めの近くのレストランへ行く事にした。




 

 タイ料理の店ではない。名前は忘れましたが、タイ人とイスラエル人のご夫婦がしておられる中近東料理のお店です。
 そこで食べたのが左の料理。大きなパンにチキンをはじめ、いろいろと挟んでいる。
 なかなか豪快な料理であった。









 食事を済ませた後も、パソコンを立ち上げ、データーの移し替えやCD−Rを焼いたり、写真を色々見たりとゆっくりした時間を過ごさせて貰い、14時30分になったので、Nap Tourへ行く事にした。
 Nap Tourに行き、インターネットにつながせて欲しい旨お願いすると、快く準備をしてくれた。メールのチェックをし、この旅行記の作成へと取りかかる。F氏は、僕のバンコクでの滞在先をメモし、「もしかしたら、訪ねるかも知れません。」と言って、チェンマイの街へ出て行った。

 旅行記が一段落すると、出来た所までサイトにアップし、メールの処理を行う。パソコンを閉じて、荷造りをし、Nap Tourのご主人さんと少し話をする。

 僕は、山岳民族の村へのトレッキングの時、ツアー客が夜遅くまで騒いだりと、村の生活に取っては迷惑なのでは無いか、それを我慢して外貨を稼ぐ事で、この村の人達はもっと豊かな生活を夢見て、やがて街に住む事を目指して、その先、どんな生活を夢見ているのだろうか、どんな豊かな生活を目指しているんだろうかと考えていた。豊かさを目指したひとつの結果が東京であり、ニューヨークであろう。ここに住んでいる人達を東京に連れて行って、東京の街を見せたら、もしかして、豊かになる事を目指すのをやめるのでは無いかと思った。

 しかし、この時、ご主人から聞いた話は違っていた。

 その昔、山岳民族の住む村までインフラを整備するのが大変なので、国策として、山岳民族をチェンマイの街周辺に連れてきて住ませた事があったが、山の生活が好きだった為、みんな山に逃げ帰ったとの事。山岳民族の人達は、けして都会に住む豊かさを目指している訳ではなかったのだ。少し嬉しい話であった。

 寝台列車でバンコクに向かう事を話すと、「列車の中のご飯は、何でこんなに高くてまずいんだと腹が立つくらい、高くてまずいです。駅の近くではコンビニもありますし、ご飯を持っていけるように包んでくれる店もありますから、そちらで買っていった方がいいですよ。」と教えてくれた。

 16時30分を過ぎたので、Nap Tourを出て、チェンマイ駅に向かう。停まっているトゥクトゥクがしょっちゅう、声をかけてくるが、向こうから声をかけてくるトゥクトゥクは相手にしない方がいいと思っていたので、そのまま歩いてターペー門の前で走ってくるトゥクトゥクを停めた。チェンマイ駅までは60バーツくらいかなと思っていると、向こうから「60バーツ」と言ってきたので、OKして乗り込んだ。地図を見ていると、一旦、北側に上がって東に走り、少し南に下った所だと思っていたが、この運転手、いきなり堀の外側の道に出て南に下る。すぐに東に行くかと思っていると、しばらく南に向いて走るので、もしかして、チェンマイ空港と間違えて無いだろうな、しかし、いくら何でもエアポートとステーションは間違えないだろうし、チェンマイ空港までここから60バーツだと、それは格安だから、それは無いだろうと思っていると、東向きの路地に入っていった。昨晩、うろついたナイトバザールの通りの真ん中くらいを東に横切ると、広いとおりで北向きに曲がる。そして、少し走った道路の真ん中で停まった。右折するには向こう側には道がないし・・・と思ってよ〜く見ると・・・小さな路地が見える。ええっ〜っと思っていると、対向車が途切れた時にその路地に向いて入っていった。もし、トゥクトゥクの手すりに肘をかけていたら、電柱や塀にぶつかるくらいしか隙間が無い。そこをそれ程スピードを落とすでもなく走り抜けていく。どこをどう走っているやら、さっぱりわからない。やがて前に線路が見え、チェンマイの駅に着いた。運転手に60バーツを払い、すぐに近くにあるコンビニに入る。14時間の乗車になるので、ちょっとつまめるスナックと、500mlの水を2本・・と思ったが、少し不安だったので、3本、買った。コンビニの並びの店を覗きながら歩くと、定食を売っている店があった。その店で豚肉を煮込んだ物をご飯の上にかけた物をテイクアウトし、駅構内へと向かう。
 駅に改札は無く、すでに列車が停まっていた。




 これが僕の乗る1等寝台列車。タイらしく、象の絵があしらわれている。
 入り口に立っていた車掌さんにチケットを見せると、個室に案内してくれる。












 寝台車の通路は狭い。人が入れ違うのは難しいくらいで、向こうから人が来たら、とりあえず自分の個室に入ってやり過ごさないといけないくらい。











 個室の中。右側のリュックを置いてあるのがシートで、ここがベッドになる。洗面する場所もあり、なかなか快適そうである。
 一つの個室は2段ベッドで、2人用の為、僕のように一人で占拠しようとすれば、2人分のチケットを買う必要があり、飛行機より高くつく事になる。一人分でもチケットの購入は可能なようだが、そのかわり、もう一つのベッドに誰が乗ってくるかわからない為、2人分買っておいた方が無難との事であった。
 個室のドアは内側から鍵が2重にかかるようになっていて、1つだと表から鍵を使用してあける事が出来る。2重にかけると、表からはあける事が出来なくなる。







 17時50分発の寝台列車は、7分遅れの17時57分、ゆっくりと走り出した。各種の情報から、タイの列車は時間にいい加減で、いろんな理由でどんどん遅れると思っていた。長距離では遅れも大きくなり、2〜3時間遅れるのは普通であると書いてあったサイトがあったので、バンコクには朝の7時着の予定だが、9時頃になるだろうから丁度いいと思っていた。とりあえず、出発は7分遅れ。バンコク到着は果たして・・・?
 走り出して10分ほどすると、車掌さんがドアをノックした。ドアを開けると、599ml入りの水のペットボトル2本を置いていった。コンビニで買わなくても、ついていたようだ。おかげでペットボトルが5本になり、充分すぎる水の量になった。
 シートに寝ころんでゆっくりしていると、また車掌さんがやってきて、シートの背もたれを上げ、2段ベッドをしつらえていった。シートは僕が一人だった為、下の段だけ準備していった。






 

 19時頃、買ってあった豚肉かけご飯を食べる事にした。袋に入っているタレをかけて食べる。こういった豚肉の煮た物は好きなのだが、列車の揺れのせいか、おいしく感じなかった。とりあえず、全部食べ終わり、室内にあるゴミ箱へカラを捨てると、パソコンを出して、旅行記を書く事にした。









 食べ終わってしばらくすると、車掌さんとは別の人がドアをノックした。食事の注文を取りに来た。いらないというと、コーヒーと、ブレックファーストはいらないかと聞かれた。そういえば、朝ご飯の事はすっかり忘れていた。トーストと卵焼きだとの事だったので、食後のコーヒーと、ブレックファーストを頼み、105バーツを払った。程なく、コーヒーが運ばれてきた。
 コーヒーを飲みながらパソコンを打っていたが、日本の列車に比べ、揺れが激しい。ブレーキのかけ方が下手で、前後への揺れも結構、ある。1時間もすると気分が悪くなってきた。時計を見ると21時30分。まだ時間は早いかなと思ったが、早々に寝る事にした。
 パソコンをしまい、トイレに行くと、欧米人だろう女の人が、「他のトイレを知っている?」と聞いてきた。どうやらトイレがつまって使用できないらしい。その女性と2人で車両の後ろにある車掌室に行く。女性が「トイレが詰まって使えない。」というと、出てきて、トイレのチェックに行く。詰まっているのを確認すると、「そこにもう一つトイレがある。」と教えてくれた。なんと、入り口は横向きだが、隣に同じようにトイレがあり、そちらには洋式便器と、なんとシャワーもついていた。しかし、ここで裸になってシャワーを浴びる気はしないな〜と思いながら、個室に帰り、毛布に潜り込む。
 毛布は2枚あるが、足下が冷える。まあ、寒いという程では無いが、うとうととしながら時間を過ごす。しかし、なかなか眠れない。右側を進行方向に向けて寝ているのだが、ブレーキがかかるたびに左側が浮くような感じになる。車の下手なブレーキと同じような感じで、停まる時には返しがある。夕食もお腹に合わなかったのか、全然消化出来ていないような感じで、お腹にもたれている。時計が2時をまわる頃には、寝台列車にしたのを後悔していた。それでも、2時過ぎから4時頃までは寝入ったようだった。時計が4時20分頃を差しているのを確認して、そのまま眠る事も出来ず、ゴロゴロと過ごしていると、5時頃、ドアをノックされた。開けると、注文を取りに来た人がブレックファーストを持って立っていた。こんな時間に持ってくるとは思っていなかったが、考えて見れば、時間通りなら6時前から下車が始まるから、そんな無茶な時間では無い。しかし、まだお腹はもたれていて、空腹感はまったくない。10分ほどテーブルの上に置いていたが、やっぱり食べとかないとと思い、お皿を広げた。






 これがブレックファースト。まあ、普通の洋風朝食である。
 しかし、一緒についていたオレンジジューは、少々毒々しい甘さだった。
 食欲がないものの、卵は嬉しかった。しかし、無理に詰め込んだ感じで、ここでも、やめときゃよかったと、後悔の念が・・・。







 6時を過ぎると、車掌がベッドを片づけに来た。荷造りだけ済ますと、シートに腰掛け、窓の外をぼんやり眺める。徐々に明るくなる中、途中の駅に停まりながらバンコクに近づく。
 やがて横にならぶ線路が多くなり、終点のファラムポーン駅に着いた。時間は・・・7時3分。なんと、出発した時の遅れ7分から4分短縮して、3分遅れで着いてしまった。9時頃になると思っていた僕の予想は完全に外れた。
 寝不足の中、重い荷物を担ぎながら、僕は初めてのバンコクの街中へと踏み出した。






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