ロンドン半日観光


 時間になり、マイバス社の添乗員さんが点呼を取り、バスに乗り込む。真っ白な車体に「My bus」と書かれている。実にわかりやすい。


 最初の注意で添乗員さんも言っていたが、このツアー、取りあえずまわるだけなので、どこにも入場しない。気に入ったところがあれば、後ほどご自分でという事だ。
 ざっとコースの紹介がある。下車は5カ所、セントポール寺院、タワーブリッジ、国会議事堂対岸、ウエストミンスター寺院、バッキンガム宮殿。

 個々の説明をどうしようかな〜と思ったけど、やめときます。何せ、ガイドブックにはバカほど出ている所ばかりだし、写真も似たり寄ったりの写真しか撮れなかったし・・・・。

 で、それ以外の事で少し。

 マイバス社の添乗員さんはロンドンで20年以上、住んでいるとの事で、「それでもロンドンの事は分かりません。」と言っていた。博物館だけでも100以上あり、とてもじゃないけど、見て回れないとの事。この人が何度も言っていた、「欲張ったらだめです。ここはという所を絞って見に行くようにしないと体に無理がかかります。」との言葉が印象に残る。この言葉が後の僕の行動にひとつの決断(という程大げさなものでは無いですが)をさせる元になった。
 市内を走る間、ずっと周りの説明をしてくれていて、セントポール寺院の前で工事をしているのは、そこにあったビルが目障りだと取り壊し、寺院にマッチした物に建て替えるのだとか。ロンドンでは個人の家といえども自由に建てる事は出来ず、常に周りとの調和を大切にするのだそうだ。新しく建て替えるより何倍ものお金をかけて修復をし、文化を守っているのである。
 市内の歓楽街近くを通る時、添乗員さんが、「この奥は夜に賑やかで・・・・・ストリップ、暴力バー、何でもあります。」と言ったのに、思わず笑ってしまった。
 ひとつショックな話を聞いたのが、なんと20年以上も続いた「キャッツ」がもうすぐ終わりになるとの話だ。アメリカの同時テロの影響で、アメリカからの観光客が減って興業が成り立たないのだとか。なんとまあ、驚きである。
 オペラ座の怪人をしているシアターの前も通り、ナショナルギャラリーの前も通り、三越のライオンマークのモデルも見て、取りあえずは市内を一回りまわったので、このツアーは僕にとってはよかった。
 パリの時と同様、最後は三越で免税販売の案内を聞く事にはなるのだが、バスを降りた後なので、自由に帰る事が出来た為、前のように嫌な感じは受けなかった。ブランド品だけではなく、本屋もあり、紅茶やクッキーもあったので、中を見て回る気にもなった事だし。

 解散後、歩いて10分かからないところにあるJCBプラザに頼んでおいた「オペラ座の怪人」と「キャッツ」のチケットを取りに行く。まだ赴任して間もないようで、慣れていない感じのお兄さんだったが、チケット以外にハーツレンタカーの営業所の場所を探してもらったりと、なかなか親切だった。で、ここで待っている間に見つけた、「英国ニュースダイジェスト」という、日本語の週刊新聞のような物があったのだが、中に、「パソコンに関する事なら、ita−netまで」という広告を見つけた。ホテルの部屋に帰って電話をしてみる。女性の方が出られて、「ダイアルアップを設定してホテルから接続できるように出来ますよ。」との話。時間的にもう終わりだろうなと思ったので、「明日、お願いできますか?」と聞くと、「明日の夕方なら一人出ますが・・・月曜日ではだめでしょうか?」との事だった。そう、何を言ってもイギリスである。土曜日は休みなのだ。明日からはレンタカーを借りて郊外を回るつもりだし、どのみちつなげないので、「お願いするようだったら、また電話します。」と言って切った。

 さて、この日の夕食はこの旅行きっての豪華版である。28階建て、ホテルヒルトンの最上階のウインドウズというレストランで50ポンド(約1万円)のディナーだ。このために持ってきたスーツを着て少し早めに出たが、ついた時間はちょうどよかった。入る前にホテルの写真を撮っておけばよかったと後から思う羽目になるとはこの時、夢にも思わなかった。
 ドアマンが立ち、重厚な雰囲気のロビーを抜けてエレベーターに乗り込む。26階はカードキーを使わないと止まらないようで、宿泊の人が使い方が分からず、何度もトライしていたが、結局、通り過ぎて28階まで一緒にあがってしまった。
 入り口で名前を告げると、コートを預け案内された席に着く。すご〜く、静かで落ち着いた雰囲気のレストランだ。メニューは決まっているのだが、オードブル・メインディッシュ・デザート各2種の中からチョイスしていく。グラスワインが一杯、ついているという事で、赤ワインを頼んだ。そしてミネラルウォーターを1本。結構、おいしいワインで、これが災いしたのかも知れない。メインディッシュの途中で赤ワインをお代わりする事になった。 すご〜くおいしいオードブル・メインディッシュが終わり、デザートを待っている時の事である。少し気分が悪くなってきた。2杯目のワインに少し口を付けていたが、ちょっと回ったかなと思っていたので、それからは水ばかり飲んでいたのだが。時差ぼけのせいか、朝3時過ぎに目が覚めて、それからずっと起きていたし、疲れが出たのかも知れないと思いながら、ちょっとやばいと思ったので、少しトイレでかがんでおさめようと、ウエイターにトイレの位置を聞いて、立ち上がった頃にはふらふらし始めているのが自分でも分かった。右手が何かにぶつかったと思った時には目の前がすでに見えておらず、気がついた時には枕を当てられ、床に寝ていた。僕が気がついたので、ホテルの女性スタッフの人が話しかけてきて、すぐ横のソファーの上に横になった。座ろうとすると、よっぽど顔色が悪かったのだろう、座らせてくれなかった。寝たまま、ボケットから電子辞書(PCカードくらいの小さいやつ)を引っ張りだし、和英辞書で時差ぼけを表示すると、その女性に「キャンユーシー?」と示す。分かったようで、うなずいてくれた。そして、昨日ついたばかりで、今朝は3時に目が覚めたので、たぶん、疲れている所に飲んだからと、自分でも不思議なくらい、冷製に、ちゃんと過去形を使用して説明をしていた。少し離れたテーブルで食事をしていた日本人の女性がのぞき込んでいる。「同じホテルの方ですよね?」と聞かれたので、「パラゴンですか?」と聞くとうなずいた。この女性がヒルトンホテルのスタッフにホテル名を伝えてくれたのだと思う。心配して見に来てくれたようだ。
 「少し顔色がよくなってきた。」と横についてくれている女性が言ってくれて、程なく救急隊がお越しになった。内心は(あ〜あ)といった感じである。貧血みたいなものなので、少し休めば大丈夫なのだが、このまま病院に連れて行かれたら・・・と心配していた。救急隊の人とも似たようなやりとりをしたが、何度か、「砂糖を食べたか?」と聞かれた。よく訳が飲み込めずにいると、「白い粉のような物だ」というので、もしかして、ドラッグと勘違いされたのかなと思った。指から少し血を採って検査すると言われ、思わず「アイ ドント ニード イット」と言ったのだが、「心配ないから」と準備を始めた。僕はこの時、実は医療費の支払いの事を気にしていたのであった。指先を小さな針でついて少し血を試験紙に採る。その後、脈拍を2度ほど取り、「大丈夫のようだ」との事にほっとした。「病院に行きたいか?」と聞かれたので、「ホテルに帰る」と伝えると、にっこり笑って、「OK」と言ってくれた。後で気がついたが、たぶん、あれは低糖発作の検査だろうと思う。小学校4年の時、血糖値が低いと言う事で、一度だけ4日間程入院した事がある。当時、血液検査をするのに耳たぶに傷を入れて血を採っていた。それで、何度も「砂糖を食べたか?」「今日は何時に食べた?」と言ったような事を聞いてきたのだろう。
 ゆっくりと立ち上がるとホテルの人が、「ディナーの続きを食べますか?」と聞いてきたが、さすがにその気にはなれない。「タクシーで帰ります。」というと、コートを用意してくれた。「ドゥ アイ ハフツゥ チェック?」と聞くと、大きな身振りで、「No,No,No,」と、エレベーターの方へと導いてくれる。正直言って立ち上がるとまだ少し気分が悪いので、そのまま案内されるままにタクシーに乗ってホテルに帰ると服を脱ぎそのままベッドへ横になった。


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