帰国


 いよいよ長かった旅行も終わり、帰国の日を迎えた。前の日にホテルにタクシーを頼んだが、ホテルでバウチャーをきるとその方が安いと教えてくれて、宿泊代と一緒にタクシー代を払い、バウチャーをタクシードライバーに渡す。いくらかかるだろうかと心配しなくていいから楽である。
 ブリュッセルの空港で搭乗手続きを済ませると、会社等へのお土産にチョコレートを買いに免税店に行き、最後のキャッシュを使う。「キャッシュと、足りない分はカードでいいですか?」と訊き、レジを打っている間にお札をおいて、コインを数えていると、「Too much.」と声が聞こえる。えっ、と思うと、手持ちが3000BF以上あったのだが、レジの数字は2405BFだった。でも、親切なお姉さんで、一旦、丁度の金額を取った後、細かいコインを大きなコインに両替をしてくれた。あまったお金を使い、喫茶コーナーで一服する。息子の好きな缶入りイクラを買うと、搭乗口へと向かう。1時間の飛行の後、僕にとっては4度目のフランクフルト空港である。(^^)
 パリに向かった時とは反対に、今度はAゲートからBゲートへと向かう。やっぱり、20分近くの時間がかかった。集合時間まで30分程度しか時間が無かったが、DMの残りがまだ100以上あったので、免税店に行く。連れ合いが職場へのお土産にとタバコを一箱と、せっかくだからと僕にネクタイを選んでくれた。
 時間が来たので搭乗口へと向かう。連れ合いがトイレに行ったため、お義父さんと息子と3人で先に待合室に入る。(搭乗直前ではなく、一旦、待合室に入る。その時に搭乗券のチェックをする。)その時、僕の搭乗券だけがすっと通らなかった。係りの人はすぐに搭乗券を確かめると、横に置いてある別の券をくれた。シートが変更になったとの事だ。連れ合いの分も一緒に変更になったのだろうかと、連れ合いが入ってきて確認すると僕だけの変更だった。何故だろうと横にあるカウンターに訊きに行くと、係りに日本人の人がいてくれた。事情を説明すると、二人分の搭乗券を持って行ってもう一人と話をしながら何かしている。しばらく時間がかかった後、搭乗券を2枚、持ってきて説明してくれた。エコノミークラスが満席になったため、僕をビジネスクラスに入れていたとの事だった。僕は一人、先に予約を取ったのと、連れ合いは別の旅行会社から予約を入れたために一人だと思ったとの話である。そして、今度はビジネスクラスに2人並んで席を用意してくれたとの事。何が幸いするかわからない。(^^)
 連れ合いがビジネスクラスの権利をお義父さんに譲ったため、僕とお義父さんでビジネスクラスに乗ることになった。
 初めて乗るビジネスクラスは座席も広く、実に快適そうだ。パソコンの電源も取る事が出来るらしいので、進んでいない仕事が出来るな〜と思っていたのだが・・・・。

 席に座ってから離陸までの間にドリンクサービスがある。しかも、簡易のコップではなく、足のついたガラスのグラスであった。席についているいろんな装置を確かめてみる。もう、おのぼりさん状態である。(^^;
 エコノミーとは比べ物にならないシートにゆったり座り、やがて離陸をすると、一路、9000kmかなたの日本へ機首を向ける。やがて食事のサービスが始まるが、先にどのメニューを選ぶかを訊きに来る。冷たい飲み物が先に配られるのだが、「紅茶がありますか?」と訊くと、今は無いとの事なので水を貰う。しかし、程なく別のキャビンアテンダントが紅茶を入れて持ってきてくれる。エコノミーとは全然違うな〜とか思いながら、やがて前菜がくる。そう、一度に出てくるのではなく、前菜、メイン、デザートと順番に出てくるのだ。でも、さっさと食べて寝たいとか仕事をしたいとか言う事なら、頼めば全部一緒に持ってきてくれる。食事に付いているパンも一緒にのせてあるのではなく、パン皿が配られ、籠にいく種類かのパンを入れて持ってきてくれるのだ。和食もあり、外人の人も結構、和食を頼んでいた。

 さて、僕の方だが・・・・。実は、エコノミーに比べるとビジネスクラスは人が少なく空間が多いため、僕のようにエコノミー体質では寒いのである。そうそうに毛布を貰っていたが、食事が始まる前くらいから気分が悪くなってきていた。やがてメインが出てきたが、半分くらい食べたところで残してしまい、デザートは断った。ちなみに、機内サービスで出てきたものを残したのはこれが初めてである。貧乏性の僕はいままですべて平らげていた。(^^)
 食事が片付けられるともう一枚、毛布を貰い、シートを目一杯倒して寝ようとするが、寒気がする。足や腰が痛く、同じ姿勢で3秒といられないしばらくしてまたキャビンアテンダントにもう2枚、毛布を貰って被るが、震えが止まらない。すでにこの時点で僕は寒さのせいではない事には気が付いていた。原因は着ているベストだ。学園に勤務していた頃、体力作りにとパワーアンクルを足にずっとつけていたのだが、2週間くらいして同じように原因不明の体調不良で悩んだ。もしかしてとパワーアンクルを外すと2日程で完全に直った。オーストラリアに行った時も同じようにベストを着ていたが、10日間だったので大丈夫だったのだろう。海外旅行の時はこのカメラ用のベストを着て必要な物をすべて入れてある。デジカメも入れてあり、会話用の辞書や予備のフィルム等、手に持つとずしっとくるくらいの重さがある。そう、このベストを37日間も着ていたのだ。一日も欠かさず・・・。体のバランスが崩れたのだ。肩がとにかくこっている。しかし、今更どうしようもない。足を腰くらいまで上げると少し楽になるが、いくらビジネスクラスのシートがいいといっても、横になれるわけではな い。

 座席についているモニターで日本までの残り時間を見る。あと7時間ちょっと・・・。すでに飛行機の中は窓を閉め、照明も落としてある。日本にさえ着けば・・・・7時間をきった・・・・後、6時間57分か・・・・あの山脈、さっきとほとんど変わらないじゃないか・・・飛行速度が900km台になっている。1000kmを超えてくれたらいいのに・・・・後6時間55分か・・・・

 こんな事を堂堂巡りのように思いながら震えていたが、残り6時間30分くらいになった時にもう我慢が出来ず、毛布をかぶるとキャビンアテンダントの待機している所に行く。「キャナイ スピーク トゥ ジャパニーズ キャビンアテンダント」と言うと、横で日本人相手に免税品の販売をしていた女性がすぐに来てくれた。この時はもうすでに僕の気持ちとしては、その辺の通路で寝かせて欲しいというのが本音であった。ようするに、足を上げておきたいのだ。「過去にもありました?」「食事はどうでした?」「お酒は飲まれています?」等、いくつかの質問を受けた。キャビンアテンダントが離着陸時に使用するシートに座り、隣のシートに足を乗せる。外人のキャビンアテンダントのお姉さんが熱い日本茶を入れてきてくれる。日本人のキャビンアテンダントも新たに来てくれて、みんなで相談をしている。お義父さんがエコノミーにいる連れ合いを連れてきてくれる。僕としてはその場所でその格好でしばらくいさせてくれれば楽になるかなと思っていたが、後から来た日本人キャビンアテンダントが、「航空法上、この場所に長くいていただくのは出来ません。もし、よかったら、ファース トクラスが空いていますので、そちらなら横になれまが。」と言ってくれた。しかし、ただでさえ、エコにミー料金でビジネスクラスに乗っているのである。しんどいのだからそんな事を考えなくてもいいのだが、考えてしまうのが僕の小市民たるところなのだが・・。連れ合いがすぐに、「そうしていただけますか」と言ってくれたので、何とか震えの収まった足でその人について2階へ上がる。座席を横になれるようにしてくれる。しかし、その時間さえ待つのがしんどくて肘掛に頭を落としてしまう。準備が出来ると落ち込むようにして座席に横になる。本当に完全に横になるのだ。おかげで足は少し楽になったが、頭痛はひどくなるばかりだ。「2時間くらい、こちらでお休みください。」と言ってくれたが、実際には着陸前の食事のサービスが始まる前までの3時間程、そこで寝かせてくれた。もともとの原因がベストを着ていた肩こりなのだからそう簡単にはどうにもならないが、それでも途中、2時間ぐらいはぐっすり寝たようで、日本まであと2時間くらいになったところで起こしに来てくれた時にはかなり楽になっていた。

 席に戻り、朝食サービスを待つ。しかし、とても食べる気はしなく、紅茶と水だけを貰った。キャビンアテンダントは僕が体調が悪いのを知っているので気を使ってくれて、何度も「大丈夫?」と訊いてくれた。
 やがて朝鮮半島を横切り、本州の上を越え、四国の上をかすめるようにして関空へと着陸していく。
 気温27度。朝の7時半である。最高気温が27度だったヨーロッパとはえらい違いであった。(^^)
 しかし、体調不良の僕にはこの暑さがありがたかった。息子にベストの事を話すと家まで僕の代わりにそのベストを着て帰ってくれた。駅での待ち時間などに肩をもんでくれて、あらためそのベストが原因だった事を痛感する。息子が、「このベスト着たら、どこがしんどいかわかるわ。」と肩と首の付け根の辺をもんでくれる。やっぱり、その辺りに負担が集中するようだ。

 何だかんだといいながら、長い旅を終え、家に帰るとたまっている手紙や留守番電話等を確認して、とりあえず寝る事にした。(^^)



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